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—シンポジウム2019— 村木厚子客員教授 基調講演要旨

イベント報告

2019/12/03 UP

「変革を担う、女性であること」

—これからの時代に求められる「インクルーシブ・リーダーシップ」—
2019年9月27日に「変革を担う、女性であること」をテーマに開催されたDCfIL主催のシンポジウム。
基調講演には、元厚生労働事務次官で「若草プロジェクト」呼びかけ人、現在は本学総合政策学部総合政策学科で教鞭を執る村木厚子客員教授が登壇されました。労働省で女性政策や障がい者政策に携わった経験を通して、これからの社会・組織に必要なことや、リーダーとして女性が活躍するために必要な資質などを、さまざまなデータを基に講演いただきました。 

<「女性活躍」、その現状と課題>

当シンポジウムのテーマは、「変革を担う、女性であること」。「女性の活躍」という言葉が世の中に浸透し始めて久しいですが、この分野にはまだ多くの課題が残されているという意味でも大変重要なテーマです。
女性の社会的な活躍に関していうと、日本では労働者の46%を女性が占め、近年働く女性がとても増えています。直近10年程度のデータの推移を見ると「結婚後も働く」ということが当たり前となり、20代から30代の働く女性の割合は7割に迫る状況です。
しかし、働く女性の数が増えた一方で、女性が担う仕事の中身には課題が残ります。その一例が正規・非正規雇用の問題。若い女性は正社員の割合が一定数存在しますが、年齢を重ねるにつれパートやアルバイト、派遣などいわゆる非正規雇用の割合が増える傾向があります。正規雇用と非正規雇用で未だ待遇の格差がある状況を踏まえると、「みんなが正規雇用で働けるようにする」、あるいは「パートやアルバイトでも正規雇用との格差なく働ける」という環境を整えていかないと課題は解消されないでしょう。
もう一つの課題は賃金の格差です。労働に対する評価をわかりやすく理解するには、賃金を指標とします。現代の女性の平均賃金は男性を100とすると73.3%。その格差を生む大きな要因は、女性が役職に就けない状況です。課長以上の役職に就く労働者における女性の割合は、1割にも達していない。これが日本の現状です。
これらの状況は、海外からは「もったいない」と見られています。世界経済フォーラムが発表した2018年版のジェンダー・ギャップ指数において、日本は149か国中110位です。日本の女性は健康で教育水準も高い一方で、経済分野や政治参画等、社会進出が十分ではありません。つまり「健康で教育水準の高い女性を育成しながらも、その能力を活用できていない『もったいない国』」というのが世界からの評価です。残念ながらこの順位は年々、下降傾向にあります。私がまだ役所に勤めている頃、この評価について「日本における女性の社会進出状況は改善されているのに順位が落ちるのはなぜか」、こうしたランキングを行う事務局に問い合わせたことがあります。それに対する返答が「日本は確かに改善されつつあるが、他国はもっと速いスピードで向上している」という内容でした。衝撃を受けたと同時に、改めて本気で取り組まなければいけない課題であることを認識した出来事でした。

<多様性の需要、社会やチームの強みへ>

日本において、少子高齢化は急速に進んでいます。これまでは3人の現役が1人の高齢者を支えていましたが、それがいずれは1人の現役で1人の高齢者を支えなければいけない状況になるでしょう。高齢化が進めば当然社会保障に係る費用は増え、国の財政は厳しく、すでに国の財政は赤字です。ここまで厳しい状況を迎え、ようやく国は税金や社会保障費を収める「支え手」を増やすことの重要性に気づいたわけです。その支え手として期待されているのが女性、そして高齢者、障がいのある方などです。

働く女性が増えると少子化が進むという考えが一部にはありますが、世界をみると、先進国については、むしろ逆の結果となっています。2014年にオーストラリアで開かれたG20の雇用労働大臣会合で初めて「包摂的な成長」というキーワードが登場しました。ハンディキャップを持った人も含め、様々な人が社会の「支え手」として活躍できる仕組みを作った国は成長が長続きするということが提言されました。さらには「誰一人取り残さない」という、現在注目を集めつつある「SDGs」の理念も登場します。世界は持続可能な成長や包摂的な成長を見据え動き出しているのです。
また、「支え手」としてだけではなく、さまざまなハンディキャップを持つ人々を受け入れることによって、チームや組織にとってプラスの効果があるといえます。日本では未だに、「女性や障がい者を雇うと生産性は諦めないといけない」という考えが企業などに根強く残っていますが、最近の研究や取組みの結果によると、女性や障がいのある人を雇用することにプラスの影響があることが分かってきました。子育て支援を積極的に行った企業やフレックスタイム制を取り入れた企業の生産性を調査した事例では、どちらの企業も一定の時間を要するものの、最終的には生産性が大きく向上していました。社会や企業、組織を支えるメンバーとして、女性や障がいを持つ人、育休を取得する男性など、これまで存在しなかった人材が出現すれば、当然最初は混乱が生じます。しかし、互いにミッションを共有しながら努力ができれば、異なる人材が存在する強みがその組織の中で生まれる。そのことを示す興味深い調査結果です。社会や組織もより多様性を取り入れ、重視すべきだと考えます。

<「変革を担う女性」に向けて>

このように、組織の中にダイバーシティを取り入れ、多様な人々とつながる力を身につけていくことがこれからの時代、そして日本の社会で必要であるとされています。そういった「異なるものとつながる力」を一人ひとりが身につけ、発揮していき、当シンポジウムのテーマである「変革を担う、女性」そして「インクルーシブなリーダー」になるのだと考えます。

ここで、役所という組織に37年半勤めていた経験から、後進に薦めている5つのアドバイスをみなさまにお伝えしたいと思います。
①「新しい仕事のオファーは受けること」
得意・専門をしっかりやり遂げることも大切ですが、異なる領域にチャレンジすれば、その経験はその人の実力を足し算ではなく掛け算で増大させます。挑戦するチャンスがあれば積極的に受けましょう。

②「昇進のオファーは受けること」
昇進とは文字通り階段を上がることに似ています。階段を上るとこれまで見えなかった景色が見えます。オファーがあるのは、客観的に見ても能力が認められているからでしょう。特に女性は謙虚になりすぎることがあるので、オファーがあれば受けてほしいと思います。

③「文句を言うときは足元の仕事をきちんとやってから」
足元の仕事を片付けずに言えば文句ですが、仕事をきちんとできている人が言えば、それは「提言」になります。

④「ネットワークを作ること」
女性にとって縦・横のネットワーク、そして組織の外とのネットワークはとても役に立ちます。私自身も多くの先輩方の知識と知恵をお借りしてきました。

⑤「学び続けること」
探索、トライアル、確立、熟達を何度も繰り返しながら、キャリアも人生経験も積んでいくのが良いでしょう。
最後に、リーダーに必要とされる資質として、私自身が参考になった教えをご紹介します。
一つには、聞いたことを咀嚼してアドバイスできること。次に「伝える力」「決める力」があり、「逃げない」こと。そして、「知力」「説得力「肉体上の耐久力」「自己制御能力」「持続する意思」を持っていること。
ここからうかがえるのは、どの力も男女の差は関係ないということです。女性もリーダーとして活躍する力が十分にあるということがわかります。
社会的に制約を受けてきた女性が活躍をすることは、今現在、困難を抱えている人たちにとって、大きな力になると思います。私も多くの女性がリーダーシップを発揮できる社会にすべく、皆様とともに努力していきます。このシンポジウムがその一歩になることを祈念しています。