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EventREPORT

—シンポジウム2019— パネルディスカッション要旨

イベント報告

2019/12/03 UP

「変革を担う、女性であること」

—これからの時代に求められる「インクルーシブ・リーダーシップ」—
2019年9月27日に「変革を担う、女性であること」をテーマに開催されたDCfIL主催のシンポジウム。基調講演、研究報告に続くパネルディスカッションでは、NECの岡島弘恵氏(コーポレートコミュニケーション本部エンゲージメント推進室室長)と村木厚子客員教授を迎え、髙橋裕子学長、森川美絵DCfILセンター長が大島美穂副学長コーディネートのもと、産・官・学それぞれの視点から本シンポジウムのテーマについて考える意見交換が行われました。
大島:パネルディスカッションでは、「インクルーシブ・リーダーシップ」とは何か、またこれからの未来をリードする人材に必要とされる資質とは何か、それぞれの立場からお話いただきます。まずは、「産」の視点から、岡島様どうぞよろしくお願いいたします。
岡島:私は津田塾大学卒業後、NECに総合職として入社し、マーケティングや広報など様々な部署を経験しました。今年の4月からは社員のエンゲージメント向上に関わる部署の部門長を担っています。私自身、キャリアを積んでいく中で、悩んだ経験が多々ありますので、キャリアカウンセリングの資格をとったり、コーチングを勉強したりしました。最近では母校の津田塾大学で就職活動の模擬面接のトレーニングも行っています。
管理職として働く中で、例えば、部下・後輩の主張や悩みを聞き、それを受け入れていくことも大きなエネルギーが必要です。しかし、部下・後輩に限らず、誰もが様々な思いを抱えている、そういった周囲の「多様性」というものを大事するよう心掛けています。時にその難しさに直面し、解決に苦労することがありますが、すべては乗り越えるために与えられた課題だと受け入れ、前向きに考えるようにしています。
岡島弘恵氏によるイラストでの事例紹介
大島:ダイバーシティも大事ですが、インクルーシブという意味で、自分の心の中にあるものを認めて共存していくことが大事ですね。村木先生、この辺りのことについてコメントをお願いします。
村木:チームで仕事をする場合、上司という立場は悩ましいものです。しかし、一つ言えるのは、欠点や弱みがあるからこそ、人の気持ちが分かる。そのようなリーダーシップも存在するということです。役所時代のお話をしますと、幼い頃は人と話すことが苦手だった私ですが、そのような経験があったからこそ、同じような状況に誰かがいると自然と応援をしてしまうようです。とあるお仕事の場面で、二人の同僚がとても緊張して話をしていたことがあったそうです。その場にいた私が必死にうなずきながら話を聞いていたため、ご自分を受け入れてもらえたと共通して感じてくださり、それ以来私を慕ってくれていたということを、後々教えてくれたことがありました。今思えばこれもリーダーシップの一つの形だったのかなと思います。岡島さんのリーダー像も、悩みがあるからこそ、なり得るリーダーの姿だと感じました。
高橋:とても印象的なお話ですね。また、リーダーシップを発揮すべき立場になると、「ここに問題がある、これはどう解決すればいいのか」と、周囲からさまざまな意見を受けることがあると思います。それらを受け止める際に、村木さんはどのように対応されていたのでしょうか。

村木:明確な答えを示すことは難しいですが、課題を共有できる仲間がいるかどうかは重要だと思います。また、頼られているからこそ、厳しい意見を受けるのだと捉えることも大切です。

大島:リーダーシップという言葉には「引っ張っていく」というイメージもあります。しかしお二人のお話を伺っていると、自らの弱さや欠点を受け入れ、同僚や周囲のメンバーとともに取り組み、協働できる状況を作っていくことも、大切なリーダーシップなのだと分かってきました。ところで、村木先生は「官」の立場を退いた現在、市民社会の取り組みとして「若草プロジェクト」の呼びかけ人をされています。若い女性を取り巻く問題に対して、取り組んでいく際に感じていることについてお聞かせください。

村木:若草プロジェクトは、貧困や虐待、性暴力など多様な問題を抱えながら、それを相談できない、居場所がないという人を支援する活動です。実際に活動してみると、行政の手の届かない部分を目の当たりにし、反省することも多くあります。だからこそ、産官学が連携しみんなで何ができるか考え、一人ひとりが行動を起こしていくことの大切さを実感しています。

大島:さまざまなつながりを持ち、そこで各自ができることを考えることの重要性が理解できました。森川先生は学生とともに活動されていますが、具体的な体験を通じて教育・研究におけるリーダーシップについてどのようにお考えなのかをお聞かせください。

森川:地域や自治体を、よりよくするために何をすべきなのかということを地域の人とともに考える人材を育成するために、大学が果たすべき役割について検討してきました。学生は主体的にプロジェクトを立ち上げ、自分たちにできることを考え、課題に取り組み、経験を積んでいます。地域や自治体、企業との組織的なタイアップや連携協定のもとで、データに基づいて、課題を共有するよう努めています。学生の思いと熱意だけで活動を進めるのではなく、エビデンスに基づいた方法を示してくことが教育機関の役割だと感じています。リーダーシップというのは、一つの授業というより、教育の場全体を通じて身に付けていくのが理想的だと考えます。
大島:ただ現場に赴くのではなく、現状の分析を行ってデータを読み、問題をどう解決してくかということを、研究レベルに高めながら実践しているのですね。続いて、高橋学長に津田梅子の研究者としての視点からお話を伺えればと思います。

高橋:柴田先生の発表にありました「改革者としてのリーダーシップ」という言葉が印象的でした。津田梅子は、本学の前身である女子英学塾を創設する以前に、奨学金制度を創設しています。留学というかけがえのない経験を、次世代につなぎたいという思いがあったのです。そのような視点からも、「インクルーシブ・リーダーシップ」の種は、本学創立の頃からまかれていたのだということを皆様に広く知っていただきたいと思っています。
大島:リーダーシップの習得や発揮には、個人の努力に加え、どのように社会の中で、その支援を制度化していくか、次世代につなげていくか、という大きなスパンで捉えていくことも必要ですね。これまでのお話を受け、岡島さんが「産」のお立場から感じたことをお聞かせください。


岡島:現代のような予測不能で先が見えず、多様性が広がり、一律でない社会においては、これまでのリーダー像とは異なるリーダーが必要だと感じています。学び続けることや多様な意見を取り入れること、共感を生むことなどが求められてくるでしょう。多様性というと他者の個性や違い、環境を受け入れていくイメージですが、同時に自分の中の多様性を認めることも大切だと考えるようになりました。今の自分の役割で自分自身にフタしてしまわずに、自分の中にある様々な要素を認めることで、他者の多様性も受容できるようになるのではないかと思います。
村木:「役割でフタをする」という言葉はとても印象的です。男性にも役割でフタをしている人は多いと思うので、多くの人が自分らしく仕事をできるような環境が理想的だと思います。

森川:これから大切になるのは、多様な人が、社会や組織に参加できるような状況をいかにつくるかということではないでしょうか。そして、参加した後に、その他者同士がどう向き合っていくか、ということになると思います。

村木:森川先生から、「参加」という言葉をお聞きし、まさにその通りだと感じました。「官」の立場からお話をさせていただくと、政策決定の場に当事者がいることは非常に重要です。現在は、男女共同参画という言葉も当たり前になりましたが、障がい者に対する政策は遅れており、10年ほど前から、ようやく障がいのある当事者が、政策決定の場に参画するようになりました。そのことにより、大胆な政策を作ることが可能になりましたし、弱さやできないことを認め合いながら、参加者同士が共生することが大切なのだと実感しました。
大島:当パネルディスカッションでは、これからの混とんとした未来、そして社会において、どのようなリーダー像が必要で、その育成のために高等教育機関としての大学は何ができるのかといったことを考えてきました。強さだけではなく、多様性を受け入れていくというリーダー像が見えてきましたが、「インクルーシブ・リーダーシップ」を発揮できる人材の育成について、私たちはこれから具体的に教育の場で実践するためにより深く考えていかなければなりません。本日はこの場にご参加いただき、ありがとうございました。ご一緒にこのテーマについて積極的に考える場を持てましたことに感謝いたします。

パネリスト
 元厚生労働省事務次官、「若草プロジェクト」呼びかけ人、総合政策学部総合政策学科 客員教授 村木厚子
 日本電気株式会社(NEC)コーポレートコミュニケーション本部 エンゲージメント推進室 室長 岡島弘恵氏
 学長 高橋 裕子
 DCfILセンター長 森川美絵

コーディネーター
 副学長(教学・国際担当) 大島美穂